現在は端から過去へとなりにけり

海へ行った

春の海だ

日差しが強く シートを敷いて寝転がった

幸せについて考える

いつかの真夏にサンディエゴのコロナドの海岸で飲んだオレンジビールのことを考えた

自転車に乗って細長い半島を一周したこと アシカの海軍のＴシャツを意味も分からずに買って、 背中の文字を読んだアメリカ人に笑われ続けたこと そのときに私には友達も恋人もいなかったこと 大きな１ピースのピザを買って食べたこと それと一緒にオレンジビールを買ったこと それを海岸で一人で食べて 寂しくなって帰りたくなって眠くなって 砂浜で寝てしまってひざの裏側が真っ赤に日焼けしてしまったこと 西海岸に浸かって日本を思ったこと 心を通い合わせることのできる恋人がほしいと思ったこと 私を唯一無二の存在として無邪気に愛する子供を産みたいと思ったこと そのときにした決意のこと

金色の光のかけらが混じるコロナドの砂を見て思ったんだ。

もうそういう「しかるべき時」が来たんだ 帰らなくちゃ。

そして、私は自由と引き換えに多忙を手に入れ、 笑い声と泣き声の中での生活に突入した。

そして、春の海である。

このずっと先にある対岸のコロナドのことを思った。

自由でひとりぼっちで寂しがっていた２０１１年の私のことを考えた。

私たちは日本とアメリカ西海岸のように対岸にいた。

現在の私は幸福な喧騒の中に 過去の私は孤独な静寂の中に

私はビールを飲みたかった。 過去の私と乾杯がしたかった。 だけど、ビールはどこにも見当たらなかった。

春の海 現在はこの瞬間に過去へ成りかわっている そしていつかの未来の私はどこかの海岸でビールを飲んでいるだろうか 伊豆の海でもアメリカ西海岸でも地中海でもいい 幸福なビールを掲げて乾杯できればそれでいい