Two
- Masumi Nakahara
- 2017年4月13日
- 読了時間: 2分
人には然るべき時というものがあって、 その然るべき時に然るべきことをしなければならない、 ということを知った日から、 それは私の座右の何とかになった。
ある日、 もしかしたら私の中には誰かがいるのかもしれない、 と漠然と思った。
それは違和感のような 親近感のような そんな感じのものだった。
その日から神様の啓示をそこら中に感じた。
虹や月や本の中、 ありとあらゆる詳細にそれらは託されていた。
Ctrlとzを押すとやり直しができた 間違えても何度もやり直すことができた
妊娠ということは、もうそういう次元の出来事ではなかった。 後戻りはできなかった。
「大丈夫だろうか」と私は言った。 「大丈夫さ」と彼は答えた。
日に日に私の体は変化していった。 押し流されるように、あらがう余地は少しもないように。 そして私は思い至った。
この体は私の所有物のように思えて、実際は自分のものではなかった。 ただの借り物だったんだ、と。
私は主体の世界から、客体の世界へとうつらなければならなかった。 それは全く別の世界であり、全く別の秩序の基で運営されていた。
「もう主体の世界にはいられない」と彼は言った。 わかっている、わかっていると私は繰り返した。
図書館からの帰り道、 もうすっかり暗くなった夜、煌々と輝く満月。
決定的な啓示を私は受け取った。
私は母親だった。 内には未知なる子をはらんでいた。
「大丈夫」と私は言った。 「大丈夫」と彼も言った。
そして静かに客体の世界への荷造りをはじめた。



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