One
- Masumi Nakahara
- 2017年4月12日
- 読了時間: 2分
大きな波の打ち寄せる浜辺で、
私はひざを抱え、その大波を見つめていた。
でも、ここじゃない、
と思いあたって、
立ち上がった。
外国語のガイドブックを持って、
そこへむかおうとしていた。
台風が来ているから無理だろう、
と現地の人は言った。
でも、数日の後には帰らないといけないから、
と私は言った。
だれも手を貸してくれないし、
ガイドブックはちんぷんかんぷんなので、
私は人の流れのとおりに進んだ。
そこはとても有名な場所であって、
だれもが行きたがっていた。
まるで、エルサレムとかメッカみたいに。
復路を帰ってくる女の人たちはみんな身ごもっていた。
私は確信を持って往路を進んだ。
それからひたすらに進んで、
途中で汚い宿に泊まったり、
隣の人と仲良くなったり、
だまされたりしながら、
私はようやくそこへ着いた。
目を刺激するガスが充満し、
人々は目が開けられなかった。
マグマが地球の心臓のように動いていた。
海はさっきの海よりももっと大きな波をうねらせていた。
あなたも?
と、隣の女の人は言った。
それじゃあ、あなたも?
と、私は言った。
大きな波が運んでくる魚を私たちはひたすら腹に詰め込んだ。
何億も、何十億も。
そこはアフリカの人類発祥の土地だった。
緑色の大きな波、
魚を詰め終った女たちは浜辺に横たわる。
突然海は静まりかえり、
私たちは水平線を見つめる。
遠くから満月が現れる。
数時間後、数日後、
私たちは世界中に散らばらなければならない。
愛する人のもとへ帰り、
そこで出産し、
家族を、文化を、人間を育てなければならない。
あなたは白い人ね、
私は黄色い人。
「飛行機が発達したって、私たちには住むべき最適な場所があるの」
私は魚をはらんで愛する人のもとへ帰る。
大きな旅を終えた私を彼は喜んでむかえてくれる。
魚が人間へと進化している間に女たちは母親にならなければならない。
旅を終え、女たちは家で休む。
緑の海の波の音を思い出しながら、
全ての女たちは自らがやがて緑の海へと変わってしまう。



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