7mmの糸
- Masumi Nakahara
- 2017年3月13日
- 読了時間: 2分
私は思うのだが、母親にとっての息子という存在は
他に類を見ないほど
一方的な思い込みによって独占されるものである
しかし、ここで重要なことは、
彼が母親を必要とするのはただの1年やそこらだけである
ただ無垢なままの自閉症の男性は、
糸を7mmに切って結び直す作業によって
自分を保っていた
彼は日本木綿糸を結び続け、
それは海外の装丁家によって額装され、
高値で売れた
彼は黙々と糸を結び、
母親はそれに付き合った
母親は彼の父親よりも彼を愛していた
彼が自分の内部に縛られ、
時折癇癪を起こすと申し訳ない気持ちになった
彼の苦しみが痛いほど分かった
それは彼女が母親であるからこそ
彼と共有出来る痛みであり、
苦悩であった
彼と母親は1年で歩き去っていく普通の母と息子の関係ではなかった
当初は心配していた息子の自閉症だが、
他の同級生の男の子たちが母親から離れていく中、
自分の息子だけが未だに自分を介して世界と繋がっていることに
いつからか優越感を感じるようになった
私の息子は私を必要とし続けている
そのことがいつしか母親を支えていた
7mmの糸を結び続ける息子は芸術家として認められ、
息子は母を養った
彼らの絆は確固とし、
完全に共存していた
世界は二つの点で構成され、
彼らは線で結ばれていた
私は彼の作品を羊1群れの値段で購入した
彼の多動と動悸の安静のために
繋がれた糸を
その集中力を悲しみ見守る母を
その全てを包括する景色を
私はこの無数の結び目を見て思い出すのだろう



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